生体触媒(酵素)は、常温(30℃)・常圧(1気圧)・中性(pH 7)という非常に温和な条件下、しかも水中で、高い反応の位置・立体選択性と基質特異性を示し、無駄な副生成物を出さない究極の触媒です。このような酵素触媒の高いパフォーマンスは何に帰因するのでしょうか。科学者達は長年この問題の解決に取り組んできました。しかし、まだまだ未知の世界が広がっています。
我々の研究室では、活性中心(反応の起こる場所)に遷移金属を含む金属酵素の機能に着目し、錯体化学・触媒化学・物理化学の観点から総合的に研究を展開しています。中でも、様々な酸化反応を触媒する金属酵素にターゲットを絞り、活性中心の精密モデル化と構造・機能の解明、および触媒反応への応用に関する研究を推進しています。
例えば、メタンオキシゲナーゼ(MMO)という酵素がありますが、この酵素には、鉄や銅のような非常にありふれた金属が含まれています。この酵素は空気中の酸素(O2)を酸化剤として用い、メタン(CH4)を常温・常圧の中性条件下で、非常に効率よくメタノール(CH3OH)に酸化します。メタンのC–H結合は非常に頑丈(結合エネルギーは105 kcal/mol)なので、人工的な触媒を用いて同じ様な反応をしようとすると、非常に高い温度(300℃以上)と圧力(30気圧)を必要とし、しかも多くの場合メタノールの過剰酸化が進行し、二酸化炭素まで酸化されてしまします。生体触媒と人工触媒のこのような大きな差の原因を紐解いて行くのが我々の研究目標です。ここから更に有機合成や工業プロセスの触媒として利用可能な機能性錯体の開発をめざします。
これを達成するために、我々の研究室では、次のような戦略で挑みます。
1)バイオミメティック配位子の設計と合成
2)バイオミメティック遷移金属錯体の合成と構造および性質
3)バイオミメティック遷移金属錯体の機能と反応性の解明
4)バイオインスパイアード触媒を用いた高難易度酸化反応の開発
(バイオミメティック:Biomimetic、バイオインスパイアード:Bioinspired)
このような研究を通じて、有機合成化学、錯体化学、触媒化学、物理化学の基礎から応用まで修得できます。そして、錯体の構造や性質を分子レベルで理解する力が身につきます。さらに、詳細な反応機構を分子レベルで明らかにする技術を修得できます。分子の構造、性質、反応が手に取るように見えてくれば、今度は自分で新しい分子をデザインします。これこそが、化学の醍醐味であり、他の分野では得られない、生涯の武器となることでしょう。
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