様々な配位子を用いて銅の活性酸素錯体を調製し、それらの構造、分光学的特性、および反応性について詳細に検討しています。現在までに、単核銅の(Superoxo)copper(II)錯体Aや(Alkylperoxo)copper(II)錯体B、二核銅の(μ-η2:η2-Peroxo)dicopper(II)錯体CやBis(μ-oxo)dicopper(III)錯体D、さらに混合原子価のBis(μ3-oxo)tricopper(II,II,III)三核銅錯体Eなどの調製に成功しています(図1)
図1:様々な活性酸素錯体
このような活性酸素錯体は、銅の一価錯体と分子状酸素との反応、あるいは銅の二価錯体と過酸化物との反応で合成します。これらのいくつかは銅-活性錯体は銅タンパク質(銅酵素)の活性中心に存在し、酸素の運搬や、各種基質の酸化反応に関与していると提唱されており、酵素系でも活発に研究が行われています。また、銅を触媒とする様々な有機合成反応の酸化活性種としても機能していと考えられており、実際に様々な反応を誘起することがわかっています。我々は、これらの反応の詳細な機構を明らかにし、触媒開発のために必要な情報を提供してきました。さらに、ニッケルの二価錯体と過酸化水素との反応により銅錯体Dと類似の二核ニッケル(III)-活性酸素錯体Fを合成し、中心金属の役割効果や役割を明らかにしました。
またニッケル錯体を触媒とするアルカンの効率的な水酸化反応系の開発にも成功し、有機合成化学への応用の可能性を示しました。
さらに最近ではオスミウム錯体を触媒とするオレフィンの高効率・高選択的cis-ジオール化反応(生成物の収率:定量的、立体選択性99%以上、触媒の回転率1000回以上)の開発にも成功し、反応機構の詳細を明らかにし、有機合成への応用を検討しています。現在、各活性酸素錯体の反応性の精密制御をめざした配位子の設計や、中心金属の拡張、および新規な活性酸素錯体の創成に取り組むとともに、得られた各種活性酸素錯体を利用した触媒反応の開発について検討しています。