2020/05/29 山下先生主催 オンラインセミナー質疑応答

名古屋大学工学研究科山下先生主催オンラインセミナーでのディスカッション内容です。たくさん、質問いただきありがとうございました。こちらに、私の考えを掲載させていただきます。

当量制御して,フェノキソーヒドロキソ架橋のNi錯体を分光学的に同定可能でしょうか?

>プロダクトと触媒の相互作用も、よく理解すべき点だと思います。
残念ながら、いまのところ検討しておりません。

Ni(III)の2核はtripletでスピン密度がNiとOに見えますが、配位子にはどれくらい行ってるのですか?
Niのスピンのエネルギー準位を積極的に制御して反応速度を変えることはできますか?

>ニッケル上のSOMO方向から直接配位している、配位子のピリジンのσ性の軌道には、スピンが誘起されています。
あまり反応に影響があるとは考えていなかったのですが、議論の中で、配位子上のスピンに注目するのも確かに面白いなと思いました。
配位子場分裂幅を変えることで、スピン状態のコントロールを第一に考えることが多いと思うのですが、構造有機的な発想も盛り込むと、一歩進んだ配位子設計ができるかもしれません。

温度依存性が強く出るということは,活性化エントロピーが有意に大きいということなので,遷移状態では複数の多核錯体が会合しているという可能性はないでしょうか

sp3炭素の酸化と芳香族の酸化において、エンタルピー支配からエントロピー支配に変わる要因が気になりました。

>反応の速度論解析の結果を見ると、活性種の濃度に対しては、一次で依存しています。この結果から、二核錯体のさらなる凝集過程は考えておりません。
本系では、反応がトンネル効果を利用して進行することを示す、大きなKIEが出ています。トンネル効果を有利にすすめるため、つまり、きれいな波動関数の重なりを作るための配置が必要なためにsp3の酸化反応は、エントロピー支配なのでは無いかと考えています。


配位していないpyridineがdispersion?で相互作用しているのでしょうか?

同じ事思った。配位してないピリジンの役割は?

>外れたピリジンについて、ご指摘ありがとうございます。あまり考えていませんでした。言われてから考えて見ると、パイカチオン種からのプロトン引き抜きで、反応をアシストしてくれているかもしれません。そういう働きが示される実験結果があるとカッコいいですね。
活性種の生成の面から見ると、外れてしまうピリジンは不要という結論なのですが、触媒サイクルの中で、配位子からのニッケルの乖離を抑える役割は、果たしていると思っています。

直鎖アルコールの反応はC-H結合解離エネルギーの差を反映した比になってますか?

>非常に鋭いところで、このプロットはこっそり作っています。実は結合乖離エネルギーだけでは、プロットがばらつきます。
基質のもつ立体構造などをパラメータにいれて、「結合乖離エネルギー+反応速度+もう1つの軸」の、3次元のプロットをつくったりして考察をしています。JACS assosiate editor のSigmanらのやっているような感じ、と書くとイメージされますでしょうか。
暫定的な結論ですが、基質の表面エネルギー(ヒルデブラントパラメータ)を変数とすると、なぜか反応性は予測されます。
これは、触媒分子と基質の接近が影響するため、と素直に理解していいのか、他の物性値と偽相関しているだけなのか、結論をつけあぐねております。

co-solventの役割はなんですか?

>細かいですが、重要なポイントをお尋ねいただき、ありがとうございます。錯体自体は、フッ素溶媒によく溶けるものができたのですが、酸化剤に利用している m-CPBAの溶解度が悪いために、トリフルオロトルエンを入れています。

生成物(アルコール)を空間的に分離する意外に、フルオラス溶媒には中間体の熱的な安定性などの溶媒効果があったりするのでしょうか?

>フルオラス系は、イオンの溶媒和を全然してくれないので、極性溶媒中の条件と比較して、高原子価錯体は不安定化しているのではないかと思っています。
この効果も作業仮説を立てる段階から入っていたのですが、まだ実験的証拠がないので、スライドにしていませんでした。溶媒効果を説明する実験を組みたいな、と思っています。

フッ素溶媒だと誘電率低いので、電子移動とかも変わりそうですね。

>電子移動について考えると、溶媒の再配列エネルギーはかなり小さくなりそうです。錯体自体の再配列エネルギーは大きくなるようにおもいます。これも研究のネタになりますね。

Fe=Oのラマンはシグナルが弱そうですが、同位体シフトは確認できるのでしょうか?

>Comp I のラマンは、室温条件で、壊れていっているものを無理やり取っているので弱いのですが、ちゃんとプロと一緒に、冷却したサンプルを測定すれば、もっときれいに見えると思います。同位体の実験についてはしておりません。
18酸素でオゾンを作る方法が必要になるのですが、実はその検討ができておりません。 ポルフィリンの活性種は報告例も多いため、電子遷移スペクトルだけで同定している例もあるので、比較的、真面目に同定をしたつもりだったのですが、、実験技術を磨きます。

フッ素系溶媒は一般的に非極性ガスに対して高い溶解性を示しますが,反応効率にはその濃度効果も効いていますでしょうか?

同じことを思いました。フッ素系溶媒に変えた時に、選択性の差もそうですが、TON(TOF?)自体も上がっていたのはそういう理解でいいでしょうか?

>おっしゃる通りでして、フルオラス溶媒はガス状アルカンの溶解に、とても有利なのでチョイスしている側面もあります。一般的な有機溶媒と比較して、だいたい10倍程度ガスが溶けます。(プロパン in アセトニトリルが30 mM、PFMCHだと300 mM が飽和濃度)
我々の系は、反応速度は基質濃度に依存しているので、溶解度の差はとても有利に働いてくれています。

最後のトピックで、他のフッ素系も試していると思うのですが、特にトリフルオロトルエンが良かったのは何故なのでしょうか?

>ポルフィリン錯体を溶解させるためには、芳香環を持った溶媒が必要でした。また、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンだと、活性種の生成効率が悪かったです。おそらくですが、上で議論したように、極性が低すぎると、高原子価錯体が不安定化するためだと思っています。

compound Iの分解はメシチル基のメチル基の酸化ですか?

>Comp I は一次の速度式に従って分解しますが、その後に再度オゾンを吹き込むと、8〜9割は、もう一度 Comp I になり、おなじ用にアルカン酸化を行います。もしかすると、おっしゃる部分の酸化が原因かも知れませんが、いまは溶媒が少しずつ酸化しているのかな、と考えています。トリフルオロメチルフェノールは検出されないので、確証はないですが。

フッ素溶媒の2相系の触媒は回収できるとのことでしたが、コバルト触媒の系でも反応剤を追加することでもう一度反応は進行するのでしょうか。

>生成物と、酸化剤から出てくる副生成物を、分液操作によって取り除き、再び基質と酸化剤を入れることで再利用できます。
しかし、あまり再利用の効率は良くないです(~20%程度と見積もっています)。共溶媒のトリフルオロトルエンは、 有機層ともフルオラス層とも馴染むので、これが界面活性剤的に働くのが良くないと考えています。酸化剤の見直しができれば、再利用効率を上げていけると思います。
フルオラス溶媒は高いので、大事な観点かと思います。

ガスの吹きつけ方法の影響はみていますでしょうか。

>ブタンの酸化反応では、ブタン飽和溶液をバブリングによって調整し、そこに試薬を入れ、そのまま反応を開始しています。
ですので、質問を頂いたように、継続的にガスを流通させたり、条件の検討によって、もう少し触媒回転数は上げられるかも知れません。


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